月夜見 “せかいさいきょー!”

         〜大川の向こう …枝番?

 
文字通り夏場のお天気に届きそうな、
“夏日”になったすぐ翌日にはもう、
霜が降りそうな寒さに見舞われるという、
相変わらずの“乱高下”に翻弄されてる今年の日本ではありますが。
だったら こうしようよということか、

 【 今日は“いい夫婦の日”ですね。】
 【 そうなんですよ♪】

本当に仲がいいのかどうか、
芸能人や注目の人ご夫婦が表彰されて、
宝飾品だの贈呈される催しが
各局ワイドショーで取り上げられるのも、
もはや例年のこと。
今年は急な寒さのせいもあってか、

 【 こんな寒い日は
  ご夫婦で“ふうふう”と
  暖かい鍋物はいかがですかという
  キャンペーンが…♪】

 【 それはいいですねぇ。】

 【 寄せ鍋におでんに、
  カレー風味やトマト風味の鍋も
  お子様には大ウケでvv】

スポンサーの調味料会社の生放送CMでは、
そんなお鍋にご利用くださいと、自社製品を紹介していたが。

 「……………。」

戦隊ものヒーローの写真がプリントされた、
子供用の小さなお茶碗を手に、
今にもお箸を取り落としそうなほどの放心状態で、
うっすらお口を開いての
じ〜〜〜っとテレビ画面を凝視していたルフィ坊やだったので。

 「あらまあvv」

何とも愛らしいその様子へ、
男所帯の家事全般を任されている
しっかり者のマキノさんも、
思わずのこと、今夜の晩ご飯は鍋ものにしましょうかと、
つられてしまっていたほどであり。
うふふと微笑んでいるところ、
見とがめられての拗ねられても何なのでと、
パタパタと洗濯機の進行状況なぞ覗きに向かったお姉様。
…だったので、
その後の坊やの呟きには、
残念ながら気がつかなかったのだったりし。

 「ふうふう…。」

小さな小さなお声での呟きは、
どこか上の空ぽい単調さ、
まるで寝言のようでもあったけれど。
テレビ画面へ映し出されていた、
ロールキャベツや赤いソーセージが
美味しそうに煮えてた鍋ににんまり微笑うと。

 「そか、ふーふの日かvv」

確認するお声は、随分とくっきりしていたルフィちゃん。
お茶椀こそ小さいが、
目玉焼きや焼きジャケ、
カレー風味のキャベツ炒めなどが乗っかった
おかずのお皿は大人並み。
ご飯だって
おむすびが別皿に2つおまけされてるのを、
突然スイッチが入ったように元気よく食べ始め、
心なしか、俄然 表情にも意欲が満ち始めたような。


  一体 何へと
  闘志を燃やし始めた坊やなのかと言えば…




      ◇◇◇



 「たもとぉ〜っっ!」
 「………ルフィ、それも言うなら“頼もう”だ。」

朝ご飯もしっかり食べたぞ、というのがようよう判る。
それはお元気な坊やのお声が、
此処へも 今朝はこの冬一番という寒さがやって来た、
中州の里の道場前で鳴り響き。

 「今日はまた早起きしたんだな。」
 「おうっ!」

あーあー、口許にご飯引っ付けて、
何で髪にまで付いてんだ、どういう食い方してるかな、
もしかして どんぶりに顔突っ込んで食ってんのか?と。
少し高い段差のある戸口にて、ひょいと屈んだ いが栗頭のお兄さんから、
勇んで食べてたご飯の後始末のお世話をしてもらってからでは、
勢いも落ちるかと思えば、

 「はやや。マキノにも取ってもらったのにな。」
 「これでも取った後かい。」

ますますのこと、呆れ半分。
それでも、この小さなやんちゃ坊主が弟分のようで、
実のところは可愛くってしょうがない剣道坊や。
にぱーっと笑う小さな王子へ、
こちらはこの寒さでも素足のまま、
庭用のつっかけを履いて出て来てくれて。

 「どした。今日もガッコあるんだろ?」

同じように、しかも大川の向こうの学校に行くゾロが、
こちらさんは剣道の朝練に勤しんでいたのは毎朝のことで。
子供サイズながらも凛々しい藍色の道着姿のお兄さんは、
実はルフィにも自慢の友達。
やっと自分も学校に行ける年になったのに、
ゾロの方は川向こうの別のガッコに行くんだと知り、
そりゃあ拗ねまくったのは
周囲の大人の皆さんの記憶にも新しいし。
里の様々な行事でも、一緒じゃないと機嫌が悪くなるほどで。
そうかと言って甘えん坊でもなく、
同い年のお友達の間では
逆上がりも開脚前回りも、
縄跳びの二重とびも うんていも、
自転車のコマなしも、裏山のナラの木登りも、
何でも一番にこなせるようになる“スーパーヒーロー”でもあって。
そんな坊やが、大好きな学校に行く前の一仕事として、
てってこてってこ坂道を降りて来るとはと。
こちらの長男坊も、一体何事かと感じはしたようであり。
どうしたんだ?と
真っ向からの一対一で訊いてやる態勢を取ったところが、

  「いーか、ぞろ。今日は“ふーふの日”だそうだ。」
  「………。」

もしかして何か聞き間違えたんだろか、俺。
今日は いい肉の日だとか、とーふの日だとか、
そっちならまだ何とか納得も行くんだが…と。
小さな剣豪少年の胸中に、
もやんとした不安感がよぎっているとも気づかぬまま。
小さな王子は言葉を続け、

  「ふうふうって鍋食うだけの日じゃないんだと。」
  「お、おう。」

ああよかった、そう来なくてはこの子じゃないと。
日頃からお友達へどういう把握をしているやら、
それでも安堵を感じた小さな剣士さんへ、

  「俺は何でも世界一を目指したいから。」

むんと胸を張っての大威張り、
此処こそ大事と一息おいてから、

  「ゾロとも、世界さいきょーの夫婦になんぞ?」

  「………………………………はい?」

以上、話はこれだけだ、練習励めよと。
くるっと回れ右をし、自宅のある坂の上 目指して、
再びたったか駆け出した坊やであり。

  「…………えっとぉ。」

せめて何がどうしてという発端とかも、
付け足してくれてたら助かるんだがとか。
さいきょーってのは最強のことだろか、
最強の夫婦って何を競うんだろかとか。
仲良しさんから どんと突きつけられた爆弾発言へ、
実は生真面目なもんだから、
慣れない思案を抱えることとなってしまったそうで。
にゃは〜vvと ご機嫌さんで帰ってゆく坊や、
どんなつもりで言ったやら、
それは王子にしか判らぬ謎となり。
先々で中州の裏伝説となろうとは、
今の今 間違いなく当事者である二人にさえ判らぬ
お話であったりするのじゃった。






  〜Fine〜  11.11.22.


  *何のこっちゃなお話ですいません。
   いえね、
   今日が“いい夫婦の日”というのは
   前々から知っておりましたが、
   そこへとかこつけたのだろ、
   ふうふうと鍋はいかがなんて宣伝していたので。
   ルフィ坊やだったら そこへと引っ掛かって
   …しまうんじゃあなかろかと。
(笑)

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